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「そうだね。病気で倒れてから変わった……というか、まだ不安だからね」
「大変だったんだね」
「まあ……ね」
そのあとふたりはしばらく黙った。少し俯き加減の慎一の横顔がどこか透き通るような脆さを伴って真智子の目に映った。真智子はその横顔を見つめながら、まだふたりが出逢ったばかりの頃、真剣な表情でピアノに向かっていた慎一の横顔を思い出していた。あの頃からどこか繊細な雰囲気が漂う横顔でもあったが、今は病気に負けまいと闘っている必死さが滲み出ていていてどこか痛々しい―。病いとの闘いから抜け出し、生まれ変わりつつある自分と向き合っているという状態の中で真智子への変わらない思いを伝えてくれた慎一に真智子は戸惑いながらもどうしようもないほどの愛おしい気持ちで一杯になった。
「早く一緒に暮らせるといいね」
真智子はぽつりと呟くように言った。
「ほんとうに?」
慎一は顔をあげるとまるで子供のような表情で目を輝かせた。
「うん。慎一の身体のこと考えたら、早く一緒に暮らした方がいいよね。ふたりでよく話し合って、協力し合ってこれからいろいろなこと一緒にクリアしていこうね」
「ほんとうに、ほんとうだよね?」
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