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―夕方になるとチャイムが鳴ったので、真智子は練習を中断し、仕事から帰ってきた母、良子を出迎えた。
「今日は真智子は慎一さんの付き添いで病院に出掛けていたのよね。慎一さんの様子はどうだった?」
「うん。病院で今後の治療についてお医者さまから説明があったよ。その後、ふたりで食事を採って、慎一を芸大まで送った後、明日のことがあるから、早めに帰ってきた」
「そうよね。真智子、このところ忙しかったものね。大学の方は大丈夫なの?」
「アンサンブルでピアノを一緒に弾くことになってるパートナーに連絡してあるし、一応、まだ、春休み中だからね。でも、そろそろ練習に参加しないと他のメンバーにも心配かけるし、練習してたところ」
「いろいろあって大変だと思うけど、あまり無理はしないようにしてね」
「慎一からもしばらくは音大での練習を優先するように言われてるからね。慎一も今日は芸大に顔出してるし、留学の報告とか、これからのスケジュールの相談とかしてるんじゃないかな」
「そうよね。真智子も何かあったら、私たちにも相談するのよ。いつでも相談に乗るからね」
「うん。ありがとう。じゃあ、練習があるから」
「そうね。真智子が慎一さんと同居するようになったら、真智子のピアノが聴けなくなるのは寂しいわね」
「いつでも来れる距離だし、ときどき顔出すからさ。その時にはまた聴けるよ。このピアノは持っていけないし、しばらくここで大事に預かっておいてね」
「これから忙しくなる一方なのに真智子ったら、そんな呑気なこと言って」
良子はそう言うと、居間を出て普段着に着替えると夕飯の支度をはじめた。
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