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「じゃあ、さっそく、練習を始めようか。まだ、初めてだし、間違えてもいいからどちらの曲も最後まで通してみてもいいかな。真智子さん、一応、どちらの曲も弾けるんだよね?」
絵梨は鞄から楽譜を取り出すと一方のピアノの椅子に座ると言った。
「ええ、まあ……。でも暗譜するほどではないから、間違えると思うけど」
絵梨につられるように真智子も楽譜を取り出し、もう一方のピアノの椅子に座った。
「譜捲りのこともあるから、間違えてもしかたないけど、あまりにずれてる時は途中で止めて、弾き直しをするから真智子さんはできるだけ私についてきて」
「はい」
「じゃあ、『牧神の午後への前奏曲』からにするね。準備はいい?」
真智子は絵梨に言われ、『牧神の午後への前奏曲』の楽譜を譜面台に置いた。いざ、譜面を目の前にすると、心臓がどきどきしすぎていまひとつ気持ちが集中できない―。
「ちょっと深呼吸していいかな」
「いいよ。準備ができたら言って。弾きはじめは私だから」
真智子は昨日、何度も聞いて練習した『牧神の午後への前奏曲』に気持ちを集中させた。
「そろそろ、いいよ」
「じゃ、はじめるね」
絵梨は弾きはじめのソロのパートを弾き始めた。真智子も自分のパートから入ると、ふたりは曲想に乗って音色を合わせ、最後まで一通り曲を弾き終えた。
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