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次の日、約束の十一時に入居予定のマンションに到着すると、すでに慎一が真部幸人と一緒に待っていた。
「今日はキッチン用品や洗濯機などの家電製品とかダイニングテーブルやカーテンなど見に行こうと思って。叔父さんが車でホームセンターを案内してくれるってことになって、時間を空けてくれたんだ」
「わざわざ、ありがとうございます」
「どういたしまして。ふたりの役に立てればと思って。私からのささやかなお祝いの気持ちだよ」
慎一と真智子は幸人の案内に従って、ホームセンターをまわり、新生活の準備を進めた。
―その日の帰り際、マンションの部屋を出る時に、慎一は真智子に部屋の合鍵を渡した。
「まだ、あまり準備が整っていないけど、今日からはここが僕たちの家だから、いつでも入っていいからね」
「いろいろ、ありがとう。早く落ち着いて暮らせるようにしようね」
「ところで、お互いまだ学生だし、入籍や結婚披露宴は真智子が卒業してからでいいよね」
「そうね……慎一の身体のことも心配だし、私も卒業に向けての課題もあるから、お互い無理はしないようにしようね」
「先ずは母のグランドピアノが届く日が楽しみだな。そうすれば、お互いここでピアノの練習ができるようになるね。そうだ、まだ先の話だけど、結婚披露宴はピアノがある教会でふたりの演奏を披露するっていうのはどうかな。きっと心に残る感動的な式になるよ」
「慎一、気が早いよ。まあ、一緒に暮らしはじめたら、ふたりでよく相談しようね」
「ごめん、えっと、真智子は先ずは卒業に向けての課題があるんだったね。僕はしばらくはのんびりペースで大丈夫だから。でも、お互い、新学期が始まるときっと大学の課題で忙しくなるね」
―その時、車の中から幸人がふたりを呼んで声を上げた。
「おおい、ふたりともいつまでそこで話し込んでるんだ?」
「あ、はい、すぐ行きます」
慎一と真智子は幸人の車に乗り込んだ。
練馬駅で真智子は車を降りると慎一と幸人を見送った後、光が丘方面に向かう電車に乗りその日は実家に帰った。
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