6-8 ショパンの子守歌

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 真智子がマンションに着き玄関のチャイムを鳴らすと、慎一がすぐにドアを開けて真智子を迎えた。 「ピアノ、もう、届いているよ。さっそく弾いてみる?」 中に入るとすぐの部屋にグランドピアノが設置され、光を浴びて輝いて真智子の目に映った。 「良かったね」 そう言って、部屋の中に入った真智子だったが、突然ふっと眩暈がしてそこで蹲った。 「真智子、大丈夫?」 真智子の異変に気付いた慎一は慌てて真智子のところに駆け寄り、真智子の額に手をあてた。 「熱があるみたいだから、休んだ方がいいね。ごめん。このところ無理させたから」 慎一は真智子をゆっくりとベッドまで連れて行った。 「ごめん。せっかく、ふたりでの新生活が始まる日だったのにちょっと疲れが出ちゃったみたい」 「いろいろ慌ただしかったからね。僕が看病するから今日はゆっくり休んでね」 「風邪、ひいちゃったかもしれないから、明日、病院へ行くね。うつすといけないから慎一も無理しないで」 「じゃあ、風邪薬飲んで、ゆっくり休んで」 慎一は風邪薬とコップ一杯の水を持ってくると、ベッドに座り込んでる真智子に渡した。 「じゃあ、今日はお言葉に甘えて休むね」 「僕は真智子がゆっくり休めるような曲を弾いてるね」 そう言うと、慎一はピアノに向かい、ショパンの子守歌を弾き始めた。真智子は風邪薬を飲むと寝衣に着替えベッドに横になった。ぼんやりとした思考の中で慎一が奏でる繊細で震えるようなピアノの旋律に包まれながら、真智子の心は夢心地の気分に包まれていった。 ※ショパン『子守歌 変二長調 Op.57』
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