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6-10 ふたりの日々のはじまり
食事の後、慎一はピアノに向かうとラフマニノフの『ピアノ協奏曲第二番』を弾きはじめた。真智子はソファーで横になりながら、波打つような慎一の演奏に耳を傾けながら、これから毎日、慎一の演奏を間近に聞きながら過ごせることの素晴らしさを改めて実感していた。演奏を終えると慎一が言った。
「この曲の楽譜を、高三のクリスマスイブの日に真智子が僕にプレゼントしてくれの、覚えてる?」
「もちろん、覚えてるよ。慎一からはシューマンの『幻想小曲集Op12 夕べに』をプレゼントしてくれたんだよね」
「次の個人レッスンでの課題曲になってね。夏には管弦楽に加わって演奏することになってるんだ。他にリストの超絶技巧練習曲に取り掛かることになってるよ。真智子のアンサンブルはドビュッシーとシューマンだったっけ?」
「ええ、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』とシューマンの『アンダンテと変奏Op.46』よ」
「弾けるようになった?」
「いろいろ忙しかったからまだ、暗譜できてないし、ぼちぼちだよ」
「久しぶりに、聴かせてよ」
「えーっ、久しぶりだから、緊張する……」
「何を今さら。間違えてもいいからさ」
真智子はしぶしぶ立ち上がると鞄の中に入ってる楽譜を取りに行った。真智子が譜面台に楽譜を置くと慎一はソファーに座った。真智子はピアノに向かいながら、はじめて慎一の前でピアノを弾いた時のような緊張感が走り、しばらく譜面台に置いてある楽譜に目が釘付けになった。
「真智子ったら、そんなに緊張してどうしたの?」
慎一は立ち上がると、後ろから真智子をそっと抱き締めた。
―そのまましばらくふたりの間に沈黙が流れた。
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