1-1 真智子と慎一の出会い

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 その日は朝から強い風が吹いていた。校舎の裏庭の楓の樹が枝葉を大きく揺らし、そんな真智子の姿をそっと見守っているようだった。真智子の胸の鼓動も背筋を伸ばしたすらっとした身体も静かに流れ続ける旋律の渦に大きく包み込まれていた。音楽室の扉は閉まっている。扉の前に立った途端、かすかな躊躇いの感情に囚われながらも扉の内側でピアノを奏でる人物を見たいという強い衝動にかられ、真智子の胸は高鳴った。そして高鳴る鼓動を確認するかのように胸の前で拳をぎゅっと握りしめると祈るような気持ちで深々と深呼吸した。扉の取っ手を掴む手からどっと冷や汗が滲み出るのを感じながら、真智子は思い切りよく音楽室の扉を開いた。  小刻みに震える旋律が大きな波のようになって押し寄せてきた。正確なタッチで押し寄せてくるフレーズの波に包み込まれ、真智子はなめらかに振動する空気のような澄み切ったイマジネーションの世界へと身を投じていくような錯綜の渦中で、俄かに身震いしながらピアノの方へと目を移した。そこでピアノを奏でる青年の視線はひたすらに鍵盤に注がれている。ときどき目を瞑りながら旋律の流れに心を浸透させ音楽へと浸り込んでいる青年の姿に見惚れて真智子はぼんやりと突っ立っていた。まるでひと雫の波紋が静かに水面を揺らしながら伝わっていくような自然な美しい調べ……。真智子は青年の横顔をじっと見つめながら、流れてくる旋律に心を乗せた。その旋律はまるで穏やかな海の景色が静かに広がるように真智子の心を温かく包み込んでいくのだった。     
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