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 「ネオン」の生物は地球の生物と驚くほど似ており、生体を構成する基本的な成分は同じであった。このことは、食料を確保する上で非常に有利に働いた。「ネオン」に降り立った人々は、「ネオン」に生息する様々な生物の調査を進め、砂糖の原料となる植物やそのまま食べることのできる果物、さらには食用に適した動物や魚介類などを次々と発見したのだった。  他方、病原体の問題は、特に移住初期において大きな問題となった。「ネオン」の生物と地球上の生物が良く似ていることは、地球の生物に対しても病原体が容易に感染し得ることを意味する。「ネオン」の病原体の中には地球の病原体と全く抗原性が異なるものがあり、「ネオン」に降り立った人類は、こうした病原体に対して免疫がなかった。そのため未知の病原体の感染がしばしば流行することになり、その度に人々は対策に追われることになったのである。  そんなこともあって、優蘭が高祖母から受け継いだカカオの種子をいきなり「ネオン」の大地に蒔くことはできなかった。カカオの種子は十分な数が無く、発芽したカカオの苗が未知の病原体に感染して、枯れてしまうようなことが起これば、二度と復活させることはできないからである。したがって「ネオン」の環境下における栽培試験のために、十分な数の種子を確保出来るまで、地球型人工気象施設内から出すわけにはいかなかったのである。  地球型人工気象施設内は外界と遮断されており、内部には病原体をはじめ、「ネオン」のあらゆる生物が入り込めないようになっていた。そして地球型人工気象施設内におけるカカオの世話はフットマン――召使いを意味する言葉だが、要はヒト型ロボットである――が担当した。こうした施設で生物学的に最も汚染されているのは人間と相場が決まっており、「ネオン」の微生物が体中に付着した人間が内部に立ち入ることで、取り返しのつかない事故が発生することを防ぐためである。
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