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 絃史と優蘭は外界と遮断された地球型人工気象施設内で成長したカカオの木をガラス越しに眺めていた。広大な施設内の一角に小区画に分けられ、カカオの木は栽培されていた。10数本のカカオの木は、まだ高さが2m前後と若かったが、その中には木の幹から赤、黄色、緑と色とりどりのカカオの実(カカオポッド)をぶら下げているものもあった。 「もうすぐ収穫できそうだね。」  絃史が言うと、優蘭は感慨深そうに、亡き高祖母の名前を口にした。 「やっとここまできたよ……枝里子(えりこ)おばあちゃん。」  物心がつく頃には既に優蘭の高祖母は亡くなっていたが、そのチョコレートへの愛は優蘭へと受け継がれていたらしい。 「それでね……。」  それからやや間があって、優蘭は少し言いにくそうに話を続けた。 「『ネオン』でカカオの栽培に適した場所を探していたんだけど、ようやく見つかったんだ。」 「今、フットマンが現地の開発をしているところで、人が住めるようになるには、あと半年くらいだって……。」 「ええと……。」  絃史がちょっと話が飲み込めないといった様子で言葉を発すると、優蘭は続けた。 「ここでは寒すぎて、カカオの木は育たない……だから、他の場所に行くしかないの。」 「『ネオン』で初めてのサテライト・シティだよ!私の家族はそこに移り住んでカカオ農園を作るの!」 「それでね……。」 「私の夢は、そこでお嫁さんになって……たくさん子供を産んで……。」 「チョコレートの町を作ることよ!」 優蘭は何かを訴えるような目で絃史を見つめていた。
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