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「あと半年か……。」  優蘭が遠くに行ってしまう……。自宅に帰ってきた絃史はこれから先のことを考えた。いつも優蘭と一緒にいた絃史には、優蘭のいない生活など考えもつかなかった。天井を見つめながら、ああでもない、こうでもないと想いを巡らせた。 「あれこれ考えてもしょうがない、出来ることをやるぞ!」  絃史はカカオ、そしてチョコレートのことを調べ始めた。絃史も優蘭と同じく、惑星「ネオン」で地球から持ちこんだ作物を栽培する研究を行っていたが、カカオの栽培に関しては素人同然であった。カカオやチョコレートのことについて調べることで、残る短い期間のうちに何か優蘭の手助けができることはないかと考えてのことであった。  もちろん、これは気を紛らわすためでもあったのは言うまでもない。  混乱した頭の中、調べ物を続けていると、絃史はバレンタインデーの風習について、その意味を知ったのである。絃史がこのことについて知らなかったのも無理もない。「ネオン」への長い航海の間、チョコレートは人々の生活の中から失われていたから、こうした風習も人々の中から忘れ去られていたのである。  絃史はなぜ優蘭が今日という日に間に合わせるために――結果的にネオンカカオのチョコレートとなったものの――チョコレートを作ろうとしていたのか、ようやく理解したのだった。  よくわからない感情が込み上げ、絃史は涙を流しながら顔を緩ませていた。 「はは……こんなの、優蘭の家族じゃなきゃ、わかるわけないじゃん……。」 「ごめんな……優蘭……わかってあげられなくて。」  絃史は外に飛び出し、夕暮れ迫る街の中を優蘭が住む家に向かって走り出した……。
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