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「先生もカズヤさんも昨日の帰宅は遅めだったのね。だったら起床はきっと遅いから、今は下ごしらえだけでいいかな?洗濯機は回したから、後はマルちゃんの掃除が終わった後に軽く廊下の拭き掃除と応接間の掃除とトイレ掃除して、洗濯物を干して……」
私はホワイトボードに書かれた昨日の二人の帰宅時間を確認してから、朝の支度の段取りを呟いた。
私が起きる前から丸い体をクルクル回して熱心に床掃除に励む心強い使用人一号の愛称マルちゃんは、自動清掃ロボットだ。
主に明け方前から作動するようにセッティングされていて、私が起き出す頃にリビングダイニングの掃除が終わっており、今は廊下をクルクルと踊っている。
「昨日は、打ち合わせ……だけのはずだったのに、帰宅時間が深夜だから……きっとその後、飲みに行ってきたパターンね。じゃぁ、朝御飯は消化の良い和食にしようかな」
この生活にも随分と慣れた。
今まで私が来る前は食事の支度も共有部分の掃除も当番制だったのだけれど、今は私が一人で担当している。
理由は、カズヤさん風に言うと『自分の飯代も稼げへんうちは家事分担、多めでもかまわへんよなっ』という感じ。
私は英語の勉強はしていたけれど、字幕翻訳に関しては全くわからない素人で。
映画翻訳家になりたい、というだけでこの道では第一任者の一人であり、有名な映画字幕翻訳者のクサカリ タミエ先生の弟子になったのだけれど。
字幕翻訳はただ英語が理解できれば誰でもできる訳ではなく。当たり前だけれど色々なルールややり方がある。
まずはその基本を勉強しながら、英語の理解力を増やす事。それが今の私の仕事だ。先生やカズヤさんが抱える仕事の下請け的な雑用はしているけれど、自分一人で字幕作成をしたこともなく。
要するに金銭を稼いでいない。逆に通信教育で字幕翻訳の授業を受けている身なので、授業料がかかっている。それは『必要投資』だからとタミエ先生払い。
なので、進んで家事の担当をしたいと申し出たのだ。
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