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「はい、今日お伺いしたのは他でもありません」池沼さんはサングラスを外してテーブルに置いた。サングラスの下から、細い、シャケの切り身みたいな形をした優しげな目がわたしを見つめる。「実はさくらさん、あなたに次期総理大臣として次の解散総選挙に出馬していただきたいのです・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
時が凍りつく、とはこういうことだ。人間の脳は聞いた言葉があまりに予想を外れてしまうときには理解が追いつかずに止まってしまうという事があるらしい。通常のコミュニケーションでは脳は相手がしゃべる言葉をあらかじめ予測していて、そうすることで相手の話をリアルタイムに反応してうまく会話することができる。もしも会話する相手がとつぜん予想外の言葉をしゃべって、それが例えば滑舌が悪かったり声が小さかったりという悪い条件が重なったら、その時は絶対にその相手の言葉が理解できない。よしんば読心術が使えたとしても、選択肢の言葉のバリエーションは多すぎる。そして通常のスムーズなコミュニケーションはほぼ不可能になるはずである。それと同じことで相手の話す言葉が予想より遠ければ遠いほど、脳が言葉を理解するには時間がかかってしまうのだ。そんなような事をわたしはどっかで聞いたことがある。多分・・・・・・。
「・・・・・・」
「さくらさん、いかがでしょう?」池沼さんが聞いてくる。
「さくら、あんたどうなのよ?」とママ。
「うーん」私は唸った。
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