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由良は、斜め前のベンチに目を止めた。
4月…自分と同じ様に薄着の女の子が座っていた。
妙に気になった。
同じ薄着、荷物なし。
携帯だけを握り締めていた。
伊藤 莉梨子 (いとう りりこ) 21歳。
人生で初めて自分の意志で動いた日だった。
父親は会社経営者で、母親もお嬢様だ。自分もそうだった。
4つ上の姉は父の持って来た縁談で幸せになった。
自分もそうだと、思っていた。
少し遠いベンチに座るお姉さんの頬が痛そうで、莉梨子は自販機まで行き携帯で缶ジュースを買うと、お姉さんの所に持って行った。
「良かったら、冷やして?お節介、かな?」
怖々と…話しかけた。
「ううん。助かる、ありがとう。」
由良は素直に好意に甘えた。
横に座ると、聞いてもいないのに彼女は自己紹介をした。
「私、りりこ。お姉さんは?」
「ゆら。」
「可愛い名前だね? 私、自分で決めて動いたの、人生で今日3回目。
いつもの私ならお姉さんの頬、気になってもお節介しないもん。」
「人生で今日、3回?今まではどうしてたの?」
「何にも?親の言う通り、電車でも席は譲らない。譲りたいと思っても、親がお前じゃなくて良い。立って痴漢に遭ったらお前に対処できるのか?って言うから。
実際、出来ない。泣き寝入りだ。親も恥ずかしいから警察には行くなって言う。」
「譲りたいなら譲れば良いし、警察に行く事は勇気のある行動だよ?」
「お姉さんいいね?物言いがストレート。
うちの家族はみんな言葉に絹を纏わせる。それが嫌だった。」
「家出?ハタチは過ぎてるよね?」
見た感じ、19歳かな?と思って確認した。
「21、明日、結婚式だったの。」
「えっ?だったって?」
「一昨日ね、結婚相手にお付き合いしてる人?愛人、ていうの?いる事が分かって。
父親の持って来た縁談で、疑いもせずお付き合いして。
言ったの、彼にも親にも。」
「中止して欲しいって?」
莉梨子は嬉しそうに由良の顔を見て笑った。
「だよね?普通はそういう反応だよね?良かったぁ。私、まだまともだ。」
「もしかしてご両親、そのまま目を瞑れと?」
遠慮気味に聞いてみた。
「うん。男はそういう事もある。1人なら良い方だ。お前は妻として大きな顔で構えていればいい。 そんなもんかなぁと、思ったけど、いう事聞いたら良いんだろうなって思ったけど、納得出来なくて。」
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