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2 仲良く
あのセリヌンティウンティウン事件から1週間ほど経ったころだろうか。
私はあの古本屋へ行きたいと思い、また仕事帰りにふらっと寄ってみることにした。
なにせあれから一週間経ったのだ。おそらく彼女と出会うことはないだろうし、出会ったとしても、一週間経ったのだから、今度は普通に接することができるはずだ。
…はずだ。
「あ、あひゃひゃひ、あの、こんばんひゅぁああ!」
無理だった。また彼女と出会うとは思ってなかったし、私がまたもや焦るとは思ってもいなかった。
そもそも、私の生活パターンと彼女の生活パターンが似ているのだろう。
出会うのは仕方のないことなのかもしれない。
お店に入ったところで、私は彼女から声をかけられた。
「あの…」
「ひゃい!」
あの制服、あの黒髪、あの瞳。
やはり彼女だ。私の心拍数はドラムのようにじゃんじゃか音を立てる。もう心臓の音しか聞こえない。
「あ、あひゃひゃひ、あの、こんばんひゅぁああ!」
変な声しか出ない。死にたい。
でも、彼女はそれを気にすることなく私に声をかけた。
「あ、あの…、何か落としましたよ?」
彼女の手には、何か黒いものがあった。私の財布だ。
「あ、あ、あ、」
わたしゃカオナシか。ありがとうぐらい言えんのか。
「あっれれー? おかしいなー?」
コナン君か。ありがとうって言うんだ、私。
「あ、あ、あ、あ」
また会ったなカオナシ。もうだめだ。変質者だ。
と、彼女の顔が崩れる。
「あ、あははは」
さわやかな、それでいて落ち着いた笑い声だった。
「あ、あ、あ、あ?」
よほど私の顔が面白かったのだろう。彼女は1分ほど笑っていた。
ようやく笑いが収まってきたころ、彼女は謝り出した。
「す、すみません! ちょっとあまりにおかしくなってしまいまして…」
やはり私の顔が面白かったのだろう。変な顔に生まれたことを私は生まれて初めて母に感謝した。
「あ、いえ。私の方こそ、カオナシコナン君みたいになりまして…」
「あ、いえいえ。とんでもない」
「あ、いえいえいえいえ、とんでもあるんです」
「…ぷっ。あはははは!」
また彼女を笑わせてしまった。どうやら私はまじめな場面で人を笑わせる才能があるようだ。
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