1 出会い

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仕事帰り、今日も私は古本屋へ入る。 日々の仕事でぐったり疲れた私を癒やしてくれるのは、紙の触り心地だけだ。 大阪の職場で、女子社員として25歳で異例の出世を遂げ、順風満帆な人生が来ると思いきや、チーフリーダーとして急遽北海道へ異動。そのための昇進だったのかとがっかりした。それから1年経ったが、もともとインドアだった私がスーパーウルトラインドアになってしまった。 でもいいんだ。外に出なくても、嫌な仕事でも、寒くても、本の世界に入れば、宇宙までだって飛んでいける。私は温かい部屋で、ぬいぐるみを抱きしめつつ、コーヒーを飲みながら宇宙に行くのが大好きだ。 古本屋では、おじいちゃん店主がうたた寝をする中、本を選ぶ。 「これは読んだことないなぁー」 パラパラと本をめくる。わくわくする内容だ。 私はブルーバックスや科学書、SF小説が大好きだ。 笑えるエンターテインメント性が高い小説も好きだけど。 そういう分かりやすい世界より、思考力や識別力を使う世界の方が、自分の宇宙がぐっと広がる気がする。 世界は有限だが、思考は無限だ。 「これと、あと、これも楽しそう」 インターネット通販で本を買ったり、電子書籍を買うという手があるのもわかる。 でも、通販だと偶然な本との出会いは少ないし、電子書籍はそもそも高い。 それに、この古本屋のにおい、空気、世界が大好きだ。 私を迎え入れてくれている気がする。やっぱり、この古本屋が好きだ。 「ん?」 ふと、「純文学」と書かれたコーナーに目をやる。 「なんかあるんかなー?」 私はお恥ずかしい話だが、日本の小説とやらには全く興味がない。知識もない。 誰か小説家を挙げろと言われると、高校の時にクラスのみんなの前で長谷川町子と言って大笑いされたことがあるぐらいだ。いや、長谷川町子は小説家ですらなかったっけ? いや、小説家だ。確か有名な小説家。いや、詩人だっけか?
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