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「太宰治、夏目漱石」
幾度となく聞いたことがある名前が連なる。
太宰治、太宰治、確か、走れメロンとかなんとかの小説を書いた人だったろうか。
いや、メロンが走るわけないか。転がれメロンかな?
でも、メロンを転がすなんておかしな話だ。転がったメロンの方が自然なタイトルだな。
うん、転がったメロン。しっくりくる。おにぎりころりんみたいな話か。
夏目漱石は何か小説を書いた人だ。何かの小説を。
いや、日本人で初めて宇宙に行った人だったかな?
なんせ、私は何の知識もないどころか、純文学とやらにも疎い。
夏目漱石について語れと言われたら
「宇宙に初めて行ったおじさん。あ、航空自衛隊に所属してました!」
で終わってしまう。
相対性理論を語れと言われた方が、その1万倍は話せるだろう。
とにもかくにも、私はその一冊を手に取ろうとは思わなかった。
興味がまったくないからだ。
と、その瞬間、「人間失格」と書かれた本に触れる、か細い指があった。
私はそちらのほうに興味を惹かれた。
「?」
女子高校生だった。どこかの高校の制服だろう。青っぽいブレザーだった。
身長は150に満たないぐらいだろうか。小柄な黒髪の女性だ。
へぇ、高校生でもこんな純文学とやらに興味があるのか。
いや、学校の授業で習うのかもしれないな。
いや、習うならわざわざ古本屋で買ったりはしないか。
いや、でも実はこの子は学校でいじめられていて、教科書が捨てられて、それで授業で習う人間失格をわざわざ買いに来た苦労人かもしれない。
いや、待てよ。教科書が捨てられたなら、ふつうは教科書を買うか。
いや、その前にそんないじめがあったら、学校に報告すべきだろう。
この子の親御さんは一体何をしているんだ!
と、そんなことを考えていると、その子と目がずっと合っているのに気が付いた。
「あ…」
しばし二人の間に沈黙が訪れる。
その高校生が本から手を離した。
「あ、すみません。この本…」
「え、え? えぇ、あ、あはははは」
何笑ってるんだ私は。あほか。
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