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夜が明け、山を下りた祥正らは城下へと向かった。
城下の武家屋敷がある所は人気がなく、商人町もいつもの活気はない。
しばらく歩き、人を探すが、どこも店を出していない。
「誰もおらぬな」
祥正が溜息交じりに言う。
「昨日の今日だ、無理もない」
そう言った尚昭も、落胆した表情を隠せない。
「尚昭殿?」
振り返れば、風呂敷包みを持った二十歳ほどの女が、こちらに駆け寄って来る。
「やはり、尚昭殿でしたか。ご無事だったのですね。祥正殿も加代も」
「義姉上も、ご無事で何よりです」
四人は再会を喜んだ。そして、女はお百合を見る。
「申し遅れました。妙と申します」
お妙は尚昭の亡兄・尚行の妻であり、祥正、加代の従姉にあたる。祥正の母と加代の母が、お妙の父の妹なのである。
「では、貴女が笛の名手と言われるお百合殿ですか」
お百合が名乗ってから、お妙が言う。
「そんな、たいした腕ではございませぬ」
「従姉上。ご存じだったのですか」
加代が半ば驚いたように言った。
「ええ。少し小耳に挟んだものですから」
恐縮にございますと、お百合は頭下げる。
「義姉上。あの後、城下の方々はどうなったのでしょう」
「そうでしたね。とりあえず、皆様城内の方にいらっしゃいますから、詳しいことはそこで」
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