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「これは……」
思わず目を背けたくなる。
「亡くなった者も、幾人かいらっしゃるようです。動ける者はほとんど女子供ばかりで……」
お妙は、少し奥の部屋に入った。そこに、壮年の女が忙しそうに働いている。
「義母上。ただいま戻りました」
「お帰りなさい。薬はそこに置い……」
顔上げた女が、目を見開いて固まる。
「母上。ご心配をお掛けいたしました」
「……尚昭。一時はどうなるかと思いましたが、よくぞご無事で……。そちらは?」
尚昭の母が、お百合に顔を向ける。
「森内のお百合殿です。城下で皆様にお会いして、お連れいたしました」
「そう。火暮や草屋のことは、よく分からぬのです。永家様が行方知れずとなられてしまって……」
「えっ」
尚昭の母とお妙以外の五人が、目を見開く。
「まさか……」
「では、誰が家中を取り仕切っているのですか」
祥正や尚昭が口々に言う。
「重臣の河村様や水村様が」
お妙が答える。
「すぐに、火暮へ戻る。父上や母上がご無事かどうか確かめねば」
「わたくしも、草屋へ戻ります」
祥正、加代、お百合は尚昭の母やお妙に礼を言い、部屋を出ようとした。
「あっ。少しお待ちを」
お妙に呼び止められ、三人は立ち止まる。
「お百合殿。森谷家臣の上野家に、妹の里が嫁いでいます。もし、お会いすることがありましたら、伝えて欲しいことが」
「はい」
「こちらは心配しなくて良いと、お伝え下さい」
「わかりました」
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