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部屋を出て、政高の書斎へ入った二人は、障子と襖を閉め切り向かい合って座った。
「春を風宮へ行かせて、上手くゆくのか」
「分かりませぬ」
「は……?」
眉根を寄せ、政高は重経を見る。
「春であれば、風宮の情勢が分かると申したではないか」
「風宮の情勢が分かるとは、某は思うておりませぬ。春姫とて、少し武術の心得があるだけで、ただの女子にございます。情勢を探らせるために春姫を遣わすのではございませぬ」
「されば、何故」
「三国の者との接触にございます」
重経は政高に近づき、声を少し落として策を話した。不適な笑みを浮かべるその表情は何処か不気味で、政高ですら恐れを抱く程である。
「上手くゆけば、三国も徳田も我らの手に」
「うむ……」
政高は、ただうなずくことしかできなかった。
「して、浦は如何いたすのだ」
「浦は、何処ぞの大名に嫁がせればよろしゅうございましょう」
「決めておらぬのか」
「はい。女子としての利用価値がございます故、まだ先でもよろしいかと思いまして」
あっさりと答える重経を、政高半ば拍子抜けして見る。彼のことだから、徳田に嫁がせる等と、無謀とも言える策を講じていたかと思っていたが、そうでもなかった。
「ここで下手に駒を動かして敵に取られるより、取っておいてしかるべき時に動かし、将を取る方がよろしいかと」
「分かった、もう下れ」
重経が出て行ったのを見届け、政高は脇息にもたれ掛かり溜息をつく。今更ながら、お春を重経の勝手にして良かったものかと、後悔し始める。しかし、一度言ったことを曲げることも出来まい。
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