第一部 第五章 策略

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 次の日、お春は書庫へ向かった。既に、基高は書物片手に、中で待っていた。お春の気配に気付き、いつになく険しい顔を彼女に向けた。 「聞きましたよ。明日、風宮へ出立するそうですね」 「はい」 「重経にはお気を付けくだされ。あの者は、根っからの策略家だ。何を考えているのか、分かったものではない」 「重経様に……」 「誠に、このままでよろしいのですか」 「えっ?」  昨日のやり取りを思い出し、お春は目を伏せる。 「このまま重経に利用され続け、何度も命の危険にさらされる。それでも良いのですか」 「分かりませぬ」 「は?」 「今後我が身がどうなるか、風宮で死ぬるか否か、わたくしには分かりませぬ。女子として生きず、男子として生きるも宿命(さだめ)。その末に朽ちるも、また宿命」  基高は言葉も出せず、お春を見ることしかできなかった。 「何故、基高様はかようなことをお聞きなさるのですか」 「何故、でしょうな……」  基高は、お春から目を逸らして答える。この季節には似合わぬ寒風が、二人の間を通り抜けた。 「いつか、その宿命に抗ってみては?」 「……」 「道中、お気を付けて」  お春とは目を合わすことなく、基高は書庫を出て行った。静寂のなか、お春だけが取り残された。
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