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「お春。行ってらっしゃい」
「道中お気を付けて」
お浦や仲松に見送られ、お春と重経、二人の従者は出発した。
しばらく、小さくなっていく一行を見ていた仲松だが、ふと視線を外すと、離れたところから一行を見送る女人とその侍女らしき二人を見つけた。
「あれは……」
「どうしたのです」
お浦も気付いて、仲松の視線の先を追った。
「仲松の知っている方ですか」
「はい……。少し行って参ります」
仲松が近づくと、向こうも此方に気付いて会釈をした。その女人はお楽の方であった。
「あれが、お春ですか」
淡々とお楽は言う。相変わらず、感情の読めぬ顔である。
「はい。大きゅうなられましたでしょう」
お楽の光の無い目は、お春に釘付けではある。
「お楽の方様。参られたのですね……」
「いけませんか、我が子を見送りに来ては」
「そうは申しませぬ」
一度だけ重経の頼みで、仲松はお春達の様子をお楽に伝えに行ったことがある。そのとき十四年ぶりに会ったお楽に、仲松は少し驚きを隠せなかった。
姿形は変わらずあるのに、それ以外のほぼ全てが変わったと、仲松は思った。人形のように座り、魂が抜けたようにしゃべる。最後に会った彼女とは、似ても似つかない。
「お楽の方様。一度だけでもお会いになってみたら?」
「もう、どうでも良いのです」
お楽は、焦点の合わない目で空を見上げる。何も言えず仲松は黙って、彼女を見ていた。
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