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歩くこと、半刻。風宮までの道のりは、まだ十五里程ある。何事も無ければ、夕刻には山越えできるだろう。
城を発ってからずっと、一行は黙々と歩みを進めていた。重苦しい雰囲気は、自然とお春の足を重くした。
「姫様。少し休みましょうか」
お春の足どりを疲れていると判断したのか、振り向きざまに重経は言う。従者達に少し離れたところで休むように指示し、お春を木陰の下に座らせた。水で喉を潤す。重苦しい雰囲気は変わらず、お春の心は安まらない。
「重経様」
「何でしょう」
「何故、風宮にわたくしを同行させたのですか。女では、足手まといになるのではありませんか」
「女だからです。まだ向こうが油断してくれる。そもそも、大きな働きをするとは思うておりませぬ。姫様の利用価値を知りたいだけです」
「無いとしたら、どうなさるのですか」
お春の問に重経は答えない。しかし、それが全てを語っているようで、背筋が薄ら寒く感じた。
「わたくしは、何をすれば」
「風宮に送った間者が誰一人として戻らぬのです。ゆえに風宮の同行、間者が消えたわけを確かめて欲しいのです。それから、火暮、水明、草屋の使者についても調べてください」
「は、はい……」
「風宮のことさえわかれば、それだけで構いませぬ」
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