第一部 第五章 策略

9/11
前へ
/44ページ
次へ
 重経が話し終わったところで、背後の茂みが動いた。既に取り囲まれていたらしく、二人の従者が太刀を構えながら、こちらに後退してくる。 「山賊か。姫様、引きつけますから、お逃げください。後から追います」  顔色一つ変えず太刀を構え、お春を背に庇うと同時に囲みの一角を崩し、その背を押した。お春は一瞬振り向くが、背を向け走り出す。その後を山賊の半数が追う。  その場に残された者達はお春の背が見えなくなると、太刀を収めた。 「ご苦労だったな」  重経は懐から巾着を二つ取り出し、(かしら)の前に放り投げた。彼らはそれに飛びつき口を開けるが、そこには小石が入って入るだけで銭も何も無い。 「おい、話がちが──」  顔を上げると同時に頭の首が転り、重経のつま先にあたる。それを見た部下達は、武器を構える者、逃げようとする者といたが、皆腰が抜けたのか、ままならない。 「()れ」  残らず斬り伏せられ、辺りに血飛沫が舞う。重経の頰に飛ぶが、彼は顔色一つ変えない。  従者がお春や残りの山賊達の後を追うのを見届け、重経はその場をあとにした。転がった首に足が少し当たったが、一瞥することはなかった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加