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重経が話し終わったところで、背後の茂みが動いた。既に取り囲まれていたらしく、二人の従者が太刀を構えながら、こちらに後退してくる。
「山賊か。姫様、引きつけますから、お逃げください。後から追います」
顔色一つ変えず太刀を構え、お春を背に庇うと同時に囲みの一角を崩し、その背を押した。お春は一瞬振り向くが、背を向け走り出す。その後を山賊の半数が追う。
その場に残された者達はお春の背が見えなくなると、太刀を収めた。
「ご苦労だったな」
重経は懐から巾着を二つ取り出し、頭の前に放り投げた。彼らはそれに飛びつき口を開けるが、そこには小石が入って入るだけで銭も何も無い。
「おい、話がちが──」
顔を上げると同時に頭の首が転り、重経のつま先にあたる。それを見た部下達は、武器を構える者、逃げようとする者といたが、皆腰が抜けたのか、ままならない。
「殺れ」
残らず斬り伏せられ、辺りに血飛沫が舞う。重経の頰に飛ぶが、彼は顔色一つ変えない。
従者がお春や残りの山賊達の後を追うのを見届け、重経はその場をあとにした。転がった首に足が少し当たったが、一瞥することはなかった。
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