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一目散に走るお春。その後を追う山賊。その距離は縮まることも、離れることもなく。
お春の目の前に茂みが現れる。周りを見渡しても、それを飛び越えるほかないようだ。その茂みに飛び込むが、抜けた先に数人の武士。お春は、驚きその場に立ち尽くすしかなかった。
「何故、娘が一人でかようなところに。そなた何処から来た」
一番年かさの者が問うがお春は答えず、彼らを睨み付ける。再度何か言おうとしたところに、怒声が響いた。
「小娘め、何処へ行きやがった」
「そう遠くには行ってねぇはずだ。探して捕まえろ。生かそうが殺そうが、好きにしていいからな」
六人とお春は声のした方を見る。
「そなた、追われておるのか」
お春は警戒を解かず、身構える。
「我らは、そなたに危害を加えるつもりはない」
「いたぞ!」
草むらから、五、六人の山賊が躍り出る。お春は彼らと山賊を交互に見やる。
「助けていただけませぬか」
今は、彼らを頼るほかないようだ。
山賊がお春の頭上に太刀を振り下ろすのと同時に、一振りの白刃が煌めいた。お春と同じか少し年上のいかにも武士といったりりしい顔をした若者である。
「孝久っ!」
山賊の太刀を受け流すと、半ば放り投げるように、孝久と呼ばれた家来らしき者にお春を託す。少しよろけたお春は、彼に受け止められた。
それを合図に皆が太刀を抜く。山賊達は一斉に太刀や槍を振り回すが、彼らは冷静に攻撃を受け流す。
「この娘を狙う理由はわからぬが、これで諦めてはくれぬか」
年かさの武士が巾着を放り投げる。じゃらっと、銭の重い音を立てて落ちた。
「一貫はある。これでは足りぬか」
山賊達は顔を見合わせると、一人が巾着を懐に入れ、走り去っていった。
「これでもう大丈夫だろう。怪我は無いか」
「はい。助けていただきありがとうございます」
「そなた名は何という。ここへは一人で来たわけではあるまい」
「春と申します。ここへは、その……おじと……途中ではぐれてしまって」
「そうか。この道だと風宮へ行く道中か。どこではぐれたかわかるか」
「いえ……」
「ならば、向かった方が良い。探すよりもその方が良かろう。異論無いな」
年かさの武士が皆を見回す。皆がうなずくと、彼らはお春の方を見る。
「それで良いか」
「はい」
お春の同意を得た彼らは、次々と名乗っていく。幸か不幸か、火暮、水明、草屋の家臣であった。
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