第一部 第一章 明玲寺の孤児

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「……一つお聞きしてもよろしゅうございますか」 「申してみよ」 「此度(こたび)、お浦とお春をお引き取りになるのは、他家へ嫁がせるためでございますか」 「そうじゃ。何ぞ不服か」  哀しみか怒りか、なんともいえぬ表情で彼女はうつむく。 「今月の内には二人を引き取る。それまで支度を怠るな。これは主命ぞ」  有無を言わせぬ目に、蓮秀尼はただうなずくことしかできなかった。  政高との拝謁を終え、本堂へ向かいながら、蓮秀尼は孤児として明玲寺で過ごしていた頃を思い出す。  まだ赤子だった頃に両親に捨てられ、十年後、引き取りに来た実父によって、売られたことがある。  そんな過去があるからか、お浦とお春を幼き頃の自分と重ね合わせてしまい、暁家へ引き渡すことを拒みたくなってしまうのである。  姉妹が、売られた自分とは別の道を進むことは、頭では分かっている。このまま、明玲寺にいるより、政高の養女として嫁ぐ方が、姉妹にとっては幸せなのではないか。尼として生きるより、女としての幸せを過ごす方が、良いのではないか。
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