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「……一つお聞きしてもよろしゅうございますか」
「申してみよ」
「此度、お浦とお春をお引き取りになるのは、他家へ嫁がせるためでございますか」
「そうじゃ。何ぞ不服か」
哀しみか怒りか、なんともいえぬ表情で彼女はうつむく。
「今月の内には二人を引き取る。それまで支度を怠るな。これは主命ぞ」
有無を言わせぬ目に、蓮秀尼はただうなずくことしかできなかった。
政高との拝謁を終え、本堂へ向かいながら、蓮秀尼は孤児として明玲寺で過ごしていた頃を思い出す。
まだ赤子だった頃に両親に捨てられ、十年後、引き取りに来た実父によって、売られたことがある。
そんな過去があるからか、お浦とお春を幼き頃の自分と重ね合わせてしまい、暁家へ引き渡すことを拒みたくなってしまうのである。
姉妹が、売られた自分とは別の道を進むことは、頭では分かっている。このまま、明玲寺にいるより、政高の養女として嫁ぐ方が、姉妹にとっては幸せなのではないか。尼として生きるより、女としての幸せを過ごす方が、良いのではないか。
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