第一部 第三章 利用

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 輿に乗ったお浦は最後に一目、と思い振り返るが、すぐに戸が閉められてしまった。  もう二度と会うことはないのだろうか。昨晩、蓮秀尼から渡された、手のひらほどの釈迦如来を見る。お春にも同じものが渡されている。  蓮秀尼が慶倫寺に呼び出された日、二人は、政高の養女となること、父の犯した罪、何故捨て子として明玲寺にいたのかを聞かされた。いずれは尼になるものだと思っていたが、政高の養女となると、政の駒として他家へ嫁がされるのだろう。  お春はこのようなときも、楽観的に考えられるから羨ましい。先の見えないこれからのことを心配しているうちに、輿は城に着いた。二人は自室となる部屋に案内され、仲松という初老の女を紹介された。  彼女は、お浦とお春に付いて行儀作法等、暁家の姫として恥ずかしくないよう教育することになっている。  部屋を見回すと調度品、小袖、小物等々、豪華とまではいかはいが、どれを取っても二人がいままで使っていたものよりは良い品である。
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