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お春は蓮秀尼の居室に駆け込む。
「蓮秀尼様。お城より使者が参りました」
「まぁ、珍しい」
暁家の姫が建立した寺とはいえ、九十年以上昔のことであり、ここ数十年では疎遠になっていた。
「御用向きは」
「明日、慶倫寺へ来るようにと申しておりました」
慶倫寺は暁家の菩提寺である。明玲寺より二里離れた所に位置し、ちょうど城下と明玲寺との中間地点にある。
「明日……。急な呼び出しだこと。他に何か仰せには?」
「特に何も……」
すぐに蓮秀尼は支度を整え、翌日早朝、弟子の尼一人と連れ立って慶倫寺へと向かった。
寺に着くと、奥の一室に蓮秀尼だけが通された。そこには、暁家当主・暁政高が待っていた。
「急に呼び出して、迷惑であっただろう」
「いえ、さようなことは……」
「今日呼び出したのは、そなたらが預かっておる孤児の姉妹のことだ」
「お浦とお春のことでございますか」
「うむ。その二人をこちらに引き取りたいのじゃ」
「……それは、何故にございましょうか」
「浦と春は、儂の兄・長高の娘じゃ」
「長高様の……? ならば何故、捨て子として我が寺に」
「訳は知らずともよい」
何も聞くなと言われ、蓮秀尼は口をつぐむ。
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