第一部 第一章 明玲寺の孤児

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 お春は蓮秀尼の居室に駆け込む。 「蓮秀尼様。お城より使者が参りました」 「まぁ、珍しい」  暁家の姫が建立した寺とはいえ、九十年以上昔のことであり、ここ数十年では疎遠になっていた。 「御用向きは」 「明日、慶倫寺へ来るようにと申しておりました」  慶倫寺は暁家の菩提寺である。明玲寺より二里離れた所に位置し、ちょうど城下と明玲寺との中間地点にある。 「明日……。急な呼び出しだこと。他に何か仰せには?」 「特に何も……」  すぐに蓮秀尼は支度を整え、翌日早朝、弟子の尼一人と連れ立って慶倫寺へと向かった。  寺に着くと、奥の一室に蓮秀尼だけが通された。そこには、暁家当主・暁政高(まさたか)が待っていた。 「急に呼び出して、迷惑であっただろう」 「いえ、さようなことは……」 「今日呼び出したのは、そなたらが預かっておる孤児の姉妹のことだ」 「お浦とお春のことでございますか」 「うむ。その二人をこちらに引き取りたいのじゃ」 「……それは、何故にございましょうか」 「浦と春は、儂の兄・長高(ながたか)の娘じゃ」 「長高様の……? ならば何故、捨て子として我が寺に」 「訳は知らずともよい」  何も聞くなと言われ、蓮秀尼は口をつぐむ。
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