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そんなある日だった。突然実家から手紙がきた。妹の、結婚式の招待状だった。
長年付き合っている相手がいるのは知っているし、相手はいい奴だ。妹を愛して、大事にしてくれている。小さいながらもパン屋をしていて、人当たりもよくて、仕事にも誠実な奴だ。
分かっていた、いつかはこんな日が来ると。妹だっていい年齢なのだから、誰かと結婚して子供だって欲しいだろう。独り身よりも、ずっと……
理性で分かっている事と、心の問題は大きくかけ離れていた。
その夜はアルコール抜きにはできなかった。弱いのに飲んで、トレヴァーが心配そうな顔をしているのを見て、また飲んでいた。
「そんなに飲んだら体に悪いですよ。体質に合わないって自分で言ってたじゃないですか」
「飲みたいんだ、いいだろ」
「良くないから……」
「お前は俺の保護者か!」
思ったよりも声が大きくて、自分で驚いて口を塞いだ。
トレヴァーの驚いた、そして少し傷ついた顔を見て、自分の愚かさに声もないまま立ち上がって、逃げるように自室にこもってしまった。
また、やってしまった。素直に話せば良かったじゃないか、あいつならきっと分かってくれたのに。
所詮抜け出せない。意地っ張りで、弱みを見せたくないのに弱いままで、そこを指摘されると恥ずかしくて、誤魔化すみたいに態度が悪くて。そうしてどれだけの人が去っていったんだ。
もう、戻らないのかもしれない関係に思えた。ここから出たくないし、トレヴァーに会うことも怖い。また、あんな顔をさせるかもしれない。それを考えたら、臆病者の顔が出てきてしまった。
せっかくできた、理解しあえる友人だったはずなのに……
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