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「俺、先輩と話したい。俺が何か気に障ること言ったんだったら謝ります。でも、このまま逃げられるのは嫌なんです。お願いですから、話をさせてください!」
「っ!」
バカみたいに強い力に手首が軋む。海軍でもある第三師団は訓練で船を操る。ロープ捌きやなんかで、皆一様に握力が強い。
「あっ! ごめんなさい!」
気付いたんだろう。パッと手が離れて腕が楽になる。その次は、捨てられそうな犬のようにシュンとした。
違う、トレヴァーが悪いんじゃない。悪いのは……
「夕飯、食べたか?」
「え?」
フルフルと首を横に振るトレヴァーを連れて、キアランは食堂へと向かっていった。
思えば食事を一緒にするのは初めてだった。自分の倍は食べるトレヴァーは、それでも元気がない。少し俯き加減だ。
「お前が悪いんじゃない」
「え?」
「俺の、虫の居所が悪かったんだ。その……悪かった」
語尾はとても小さく消えてしまいそうだった。目は、見る事ができなかった。
それでもトレヴァーは驚いて、次にはふわりと笑った。
「良かった」
「何がだ」
「俺、嫌われたんだって。あれ以来、避けられているような気がして。ラウンジにも来ないし。何度か先輩の部屋に行こうかと思ったんだけど、余計に嫌われたらどうしようって思ったらできなくて」
そんな事を思っていたのか! 知らなかった。
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