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一方でキアランは誰もいない。唯一ウルバスは恋人がいないが、あいつは絶対にモテる。必要に思っていないからいないだけで、その気になれば引く手数多だ。
優しく気遣いが出来て性格は穏やか。そのくせ戦いとなれば強く、頼りがいがある。顔立ちだって力の抜けたふやけた笑顔を引き締めればいい男だ。
寂しい。だが、プライドも高い。誰かにお願いするのが苦手で、弱い自分も寂しさも見せる事ができない。指摘されると全力否定し、誘われても一つ返事じゃ行かない。何度か誘われてようやく腰を上げる。面倒だろう。
それでも後輩で、今では双璧と言われるようになったマーロウとは、同じ臭いを感じていた。互いに一人が似合う。そんな空気が心地よくもあったのに。
どんよりと沈み込んだ夜、苦手なくせにラウンジに行って、飲めない酒をチビチビ舐めて溜息を何十回と吐き出した。カウンターの隅、そこだけ人が寄りつかない。
「あれ? どうしたの、キアラン」
「ウルバス……」
声をかけられ、睨むように振り向いた先にいる優男を見る。今は全部が恨めしくて、とくに同期とは会いたくないというのに。
「どうしたの? 凄い顔してるけど」
「煩い、放っておいてくれ」
「えー」
とぼけた顔で首を傾げたウルバスは、何を思ってか隣りに腰を下ろす。睨み付けると柔和な笑顔で「まーまー」と宥められた。
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