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「これはなんですか。 」
「チョコです。」
「どうみたって岩石でしょ。」
「チョコです。」
「落としたら床が陥没しそう。」
「チョコだってば。」
2月14日。
少し残業した仕事を何とかやり遂げ、家に着いたのは午後23時前。
ドアを開けると立っていたのは、彼女..いや、先日から嫁に変わった、陽菜だった。
陽菜から渡された、茶色い箱のラッピング。
日付からも察しがつく。今年の分のチョコレートだ。
と、思って開けたら、今年もチョコではないものが出てきた。
陽菜曰く、チョコだけど。
2人でこの日を迎えるのは、もう8回目になる。
8回もらっても、陽菜のチョコは相変わらず進歩しない。
「なんで毎年手作りにこだわるの。」
「市販のより愛情が..」
「殺意の間違いじゃない? 」
「うるさいっ。」
陽菜は俺のスーツを、音を立てて叩く。
別に痛くないけど。
俺はそんな陽菜と一緒に、リビングに入る。
ソファに座って、もう一度、チョコ..いや、岩石だ、これは。岩石を眺める。
硬いし、黒っぽいところもあるし、綺麗な箱が逆に切ない。
チョコだって、こんな姿になるとは思ってもみなかっただろう。
「なんで毎回うまくいかないのかなー! 」
俺の隣に勢いよく陽菜は座る。
「ソファがいたむよー。」
「ごめんごめんー。」
昔から、何かと雑というか。ちょっと変な奴だった。
筆箱忘れたってコンビニで1式揃えてきたり。
家の鍵がないからって玄関で1時間待ってたり。
筆箱忘れたら、戻るなり借りるなり、サボるなりすればいいのに。鍵忘れたら、俺に連絡したり開いてる窓探したりすればいいのに。
なんかこう、普通そうしないだろっていうことを、やってる。
こうすればよかったじゃん、って言えば、「あ、そっか。その手もあったね。」なんて笑って。
まぁ、だからこそ、8年一緒にいても飽きないけど。
「さー。ご飯作ろうかねー。」
「え、食べてなかったの? 」
「食べたよ? 」
「なんだよ。」
「総太の分は冷めてるよ。あっためるの。」
「いいよ、自分でやるから。」
「いーから、いーから。キミはチョコでも食べてなさい。」
「これどうやって食べるの? 」
「うるさいな! まず齧ってみなよ! 」
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