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朝顔の少女の、病弱のように白い面貌が僕に向けられる。 正面から見たいという願いは叶えられた。 いや、今はそんな場合じゃない。
潤んだ黒瞳を訝しげに細め、しかし口の端に悦を滲ませながら、少女は己の肘を抱いた。
「じろじろ眺めてさ、えっち」
「そ、そんなつもりは無いよ」
「怪しいなあ。 じゃあどんなつもりで見てたの?」
「あぁっと……」
嘘でも吐いておけば良かった。 だがあまりに突然のことで、相手を満足させるほどの言い訳を思いつかなかった。
「言えないってことは、やっぱり卑猥なこと考えてたんでしょう?」
「誤解だよ」
「だったら教えてよ。 私を見てた理由を」
彼女との距離が拳一つほどまで縮まって、僕は半歩下がって朝顔から顔を背けた。
「線の内側に下がらないと、危ないよ」
「あ、話逸らさないでよ」
「別に逸らしたつもりじゃない。 心配しただけ」
「それなら私からも、線の内側に下がらないと危険だよ」
「僕はいいんだよ」
黄色い線は、生と死の分岐だ。
僕はこれから死ぬつもりだから、もう内側には下がれない。 下がらない。
「──もしかして、死のうとしてる?」
的確な意見に表情が引き攣った。
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