七月十八日

3/21
前へ
/186ページ
次へ
「……いや、別に」 「じゃあ下がりなよ。 死なないんでしょ」 「……」 「やっぱり死ぬつもりだ」 「うるさいな。 君には関係ないだろ」 反駁できなくなって、ぶっきらぼうに言い返すのは幼稚な子供みたいだ。 いち男として情けない姿ではあるけれど、どうせ死ぬんだから関係ないと思った。 この少女には関わらないでおこうと、空の鞄を掴んでこの場を立ち去ろうとした。 「ね、その鞄、なに入ってるの」 ところが、少女に鞄を掴まれて、この場を離れることを許されなかった。 「離せよ」 「嫌だ。 中身教えて」 「……教科書とノートだよ」 「筆箱は?」 「と、筆箱」 「財布とかは」 「加えて、財布」 面倒なやり取りは、したり顔の少女に「嘘だ」と言われて終止した。 少女は他人の鞄を両側から無礼に叩きながら、 「こんなに薄くなるわけないじゃん」 「最近のはそうなんだよ。 最先端的な」 「へぇ」 「納得してくれた?」 「納得、ねぇ」 苦し紛れの言い訳に少女は首を傾げる。 そして鞄から手を離し、次に少女が自身の鞄を僕に寄越した。 「何だよ」 「ちょっと持ってみて」 言われて、鞄を持ってみる。 「君と同じで軽いでしょ」 「まあ、たしかにそうだけど」 形は僕のと似ているが使い古されているのか、あちこちに刃物で切ったような傷が目立っている。 意外と荒々しい性格なのかもしれない。 「中身、見てもいいよ」 「普通は見せないよ」 「私、普通じゃないから。 早く見てよ」 僕の意志よりも催促されたことで少女の鞄の中身を見てやった。 男が見てマズイ物が入ってても知らないぞ、と思ったのに──
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加