七月十八日

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「……これは」 黒い鞄の中に、まるで一縷の光のように白い封筒が入っていた。 他には何も見当たらない。 ただ一枚の封筒が入れられているだけ。 「それ、私の遺書」 「……遺書」 「驚いた?」 「少しは。 僕に見せてどうしろと」 「意外だなあ。 普通なら「死ぬのは駄目」とか言うじゃん」 「君は、死ぬつもりなのか」 遺書を手に取らないまま鞄を返す。 少女はきょとんとして「そのつもりだよ」と言った。 「だから、君に迷惑をかけないためにも、線の内側に下がっててほしいの。 血と肉を頭から被るなんて嫌でしょ?」 艶やかに微笑んだ少女に、僕は同じように鞄を渡した。 同じ人間を、見つけたからだ。 心を開けると思ったからだ。 「どうしたの?」 「中身、見なよ」 「……私、中身当てよっか」 「どうせ分かってるんだろ」 「バレちゃったか」 言いながら、少女は僕の鞄から茶色い封筒を取り出した。 「退職届みたいだね」 「人生に退職するんだよ」 「面白い言い方だね」 「とりあえず隠してくれる? あんまり見られたくないから」 周りを見渡してみるけど、各々自分のことに夢中で、僕たちの『現世から乖離した話』なんか誰も聞いてはいない。 故に目を気にする必要は無いが、なんだろう、この世を去る宣言(内し謝罪)を空気に晒すと腐ってしまう気がした。 だから鞄に入れていたのだ。 彼女も同じ思考でいたのかもしれない。
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