七月二十一日

23/24
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
僕は彼女が料理をする話からヒントを得て、次のやりたいことを決めた。 「次は僕の番だよね」 「えっと……?」 「死にたいまでにやりたいことの話だよ」 「ああそっか、次は芦田くんの番だね。 何なりと」 「はいコレ」とノートを渡され、さらさらと次のやりたいことを書いてから貴方さんに見せた。 「これ、は」 「貴方さんの手料理が食べてみたいかな」 野菜を詰め直す手を止めた貴方さんの表情は、あの時の僕と同じくらいに動揺していたと思う。 そう。 言うのは簡単だが、心の準備を必要とする願いに戸惑う顔だ。 「……良いけど、期待しないでね」 「分かったよ」 「じゃあ三日後の水曜日に、廃校の屋上で待ち合わせね」 「もしかして仕込みから始めるつもり?」 「違うよ。 練習するの」 残り、二十七日。 三日後に会うとなると、残りは二十四日となる。 貴方さんが三十日生きたいと願う中で、やりたいことは既に決めていると言っていた。 果たしていくつあるのだろう。 「貴方さんは、死ぬまでにやりたいことをいくつ考えてるの?」 「うーんと今は四つかな。 芦田くんはいくつある?」 「……僕は決めてないよ。 漠然としてて分かんないし」 「死んでから気付いても遅いんだからね」 「後悔しないように考えておく」 「よし。 それでは約束の指切りを──」 ピリリ、ピリリ、ピリリ── 貴方さんが小指を伸ばしかけたその時、二人の会話に水を差して着信音が鳴り響いた。 聞き慣れない音は、貴方さんの携帯からだと分かる。 ピリリ、ピリリ、ピリリ── 「出ないの?」 「あ、うん。 ごめんね」 まるで腫れ物に触るかのように携帯を手に取り、足早に離れて電話に出ていた。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!