七月二十一日

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彼女が戻ってくるまでに野菜の片付けを手伝おうとしたところ、自然と鞄の中が見えてしまった。 普通なら「見えてしまったな」程度で終わるのだろうが、僕の目は一点に釘付けになった。 「……まだ入れてたのか」 遺書だ。 彼女の遺書が、あの日と何も変わらずに鞄に入れられていた。 取り出すのを忘れているのか、はたまた家族に読まれまいとしているのか。 僕としては後者だろうと思った。 この世の決別を宣言した書面を、誰だって生前には読まれたくないのだから。 と語る割には、僕の遺書は自室に放った鞄の中だ。 あまりに無防備すぎているから、帰ったら改めて隠しておこう。 「親がうるさいから、そろそろ帰るね」 「ああ、気を付けて」 「三日後、楽しみにしててね」 貴方さんは鞄のファスナーを閉めて、僕が何か言うよりも先に鞄を担ぎ、闇の中へ走って行ってしまった。 僕はその背中を、ただ呆然と見つめていることしかできなかった──
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