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七月二十七日
僕たちは車窓から流れる景色を目で追いながら、祭り会場に向かっていた。
揺れる車内には目的が同じ人間が何人もいて、みな浴衣を着ていた。 電車に浴衣はどうもアンバランスな感じがする。
もとい、僕もこの世とはアンバランスな人間だけど。
「電車に浴衣って似合わないね」
「綾女そう思ったのか」
「うん。 電車って無機質でメカメカしいじゃん? そこに和の有彩的な華やかさがあるってのが違和感なんだよね」
「だから今日は浴衣を着てこなかったわけか」
現状、僕たちはお互いに私服だ。
周りから見ればこれから祭りに行くような格好ではない。
綾女は自身の服装を見ながら、沈鬱とした声を漏らす。
「……私だって浴衣は着たかったよ」
「そ、そっか。 悪いこと言った」
「良いの。 気にしないで。 いつか着れるの楽しみにしてるから」
「いつか、か」
「そ。 だから今日は目一杯楽しもうね」
気を取り戻したのか、「ああ楽しみだ」と口癖みたいに呟いて、十分後に僕たちは祭り会場へ到着した。
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