二章

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二章

ぽかん、呆けたこころを腕の中に抱きながら、俺の心は自己嫌悪の嵐だ。 何やってんだ、神さまだろうが! 「あ…」 だらしなく開いた口から、こころは必死に声を絞り出そうとする。 それを横目に、俺の思考は目まぐるしく回る。 どうする、消えるか。こんな失態…だが今更誤魔化せないか? 神様なんだろ?神の力使って記憶でもなんでも作り変えれるじゃん。と、思ったそこの君! 俺は神様だ。 だが、元から神様だった訳ではない。 人間たちによって神様に祀られた存在なのだ。 つまり、 『願われない限りは』 神の力なんぞ使うこともできないんだ! 俺が焦ってまごまごしている間に、こころは多少落ち着きを取り戻したようだ。 俺の腕の中から注意深く階段の上に降りると、素早く少し距離をとる。 臭い人になったような気分だが、俺は諦めてこころと向かいあった。 「……」 「……」 お互い、言葉が出ない。 付き合いたての男女のように、目を合わせることもなく俺とこころは反対方向へと進んだ。 こころは階段を降り始め、俺は階段を登り始める。 「…ちょっと待っぢっ!」 さっと振り向いたこころは、思いっきり、これでもかというくらい爽快に舌を噛んだ。 かぁっと頬を染め下を向いたが、流石は『クラス一表情が動かない』というなんとも不名誉な称号を持つ女。 すぐさま気を取り直して再度、俺に声をかける。 「ちょっと待って」 今度は言えた、と少し安堵してこころは俺の袖を引っ張り、階段の頂上へと進む。 彼女の自信、いや、むしろ過信といっても良いかもしれないが、どんなに千切られても壊れはしないようだ。 反対に、俺はひどく呆れていた。 は? おいおい最近の子供は危機感ってものがないのか。 見ず知らずのいい年した男に絡まれたって自覚はないのか。 神であること、そしてずっとこころのことを見ていたことを知られるとまずい。 咄嗟のことだったとは言え、神である以上許されないことをしたのだ。 例えもう信じるもののいない廃神だとしても、その行為一つ一つには責任が伴う。 このままでは神でいる以前に、存在そのものがなくなってしまうかもしれない。 それは困る。 まだこの世界にとどまっていたいのだ。
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