3 彼女の感触

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お役所勤めの青白い顔をした雅也が漫画から目を話すことなく、穏やかな口調でそう言った。 「あー。俺の女に何してくれちゃってんの?的な。あり得るね」 デザイン事務所で働くようになってからやたら斬新なメガネをかけるようになった健斗がコーラをひとくち、口に含んでからそう言った。 「……そうかな」 僕はそう言いながら、自分自身でそれを強く否定できないことをわかっていた。 そして涼介が一縷の望みをぶった切るかのように、冷酷なまでに静かに言った。 「騙されてんだよ、お前」 涼介の言葉に、誰もが苦笑いを浮かべる。 それぞれに、苦い経験を抱えているのだ。 涼介は高校から大学までの間に付き合っていた彼女と大きなケンカをして意地を張り、そのまま自然消滅。 けれど、引きずっていたのは涼介だけで、彼女は涼介とダメになってからすぐに、デキ婚をした。 こいつが酒の味を覚えたのもこの頃だ。 それから涼介には彼女がいない。
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