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7 彼女の覚悟
乗客のまばらな車両に座って揺られている僕と瀬奈の間には、拳一つ分ほどの隙間が空いている。
それは、瀬奈がまだ僕に心を開き切っていない証拠だ。
それに、大っ嫌いと言った瀬奈の言葉が未だに僕の胸の中で渦を巻いていて、うっかり気を緩ませたならすぐに涙が溢れ出てしまいそうになるので、僕は向かいの座席でまどろんでいるおばあさんの舟をこぐ回数を数えたりして気を紛らわせていた。
その時、コートのポケットに突っ込んだままだったスマホが振動した。
それが瀬奈にも伝わったのか、彼女も僕のコートに目を向けた。
『取り込んでいるようなので先に上に行く。車は戻しておくから心配するな。
折原は、今日は腹痛で帰ったってみんなには言っておくから、出社したら話を合わせるように。よろしく』
聡美さんらしい、素っ気ない愛想のない文面。
そのずっと奥の方に何があるのか、僕はもう知っているはずなのに、
『ありがとうございます。助かります。また明日、直接謝らせてください。本当に、すみませんでした』
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