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もうすでに父は涼介を許している。
まりなの事ばかり考えて来た甘い父の事だから、きっと彼女の思い通りにさせてあげたい、そんな気持ちでいるのだろう。
けれど笑って送り出してあげられないのは、もう少し一緒に居たかったという、父の引き際を見失ったわがままなのかもしれない。
それを引き離してやらないと、父もまりなも不幸になる。
空気の張りつめたリビングに、僕は何かに突き動かされるようにして飛び出した。
そして、トレーナーの裾もめくれ上がったまま土下座をした。
「許してやってください。お願いします」
僕を突き動かしたのは、きっと母だ。
彼女が生きていて今ここにいたとしたら、きっとこうしたかったに違いない。
まりなが頬を拭ったのが見えた。
「……もう、いい。早く行け」
父はそう言って席を立つと、涼介の肩を一度しっかり握って、それからトイレに入ってしばらく出てこなかった。
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