1 彼女の体温

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その時だった。 僕の背広の裾を誰かがぎゅっと掴んでくる。 細いこぶしの持ち主はさっきの女子高生だ。 何だ? 具合でも悪いのか。 今の僕は人を助けている余裕のないほうの人間だ。 悪いけど、他をあたってくれないかな。 そう思って薄目を開けて彼女を見ると、大きな目にいっぱい涙をためて唇を噛んでいる。 「痴漢だ……」 咄嗟にそう思った。 彼女の周りに視線を上げる。 メガネのズレを直してから、怪しい人物を探す。 それはすぐに見つかった。 ドアを背にして彼女の真横にいる細くて角張った四角いフレームのメガネの中年男性。 スーツじゃないから、この時間の通勤電車にはそぐわない、違和感もあった。
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