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その時だった。
僕の背広の裾を誰かがぎゅっと掴んでくる。
細いこぶしの持ち主はさっきの女子高生だ。
何だ?
具合でも悪いのか。
今の僕は人を助けている余裕のないほうの人間だ。
悪いけど、他をあたってくれないかな。
そう思って薄目を開けて彼女を見ると、大きな目にいっぱい涙をためて唇を噛んでいる。
「痴漢だ……」
咄嗟にそう思った。
彼女の周りに視線を上げる。
メガネのズレを直してから、怪しい人物を探す。
それはすぐに見つかった。
ドアを背にして彼女の真横にいる細くて角張った四角いフレームのメガネの中年男性。
スーツじゃないから、この時間の通勤電車にはそぐわない、違和感もあった。
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