1 彼女の体温

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彼女は市川で降りるまで、何も言わずに僕に抱き着いたままだった。 僕も拒絶せず、そのまま彼女の体温をビビりながらも味わっていた。 ごめん、痴漢男よ。 お前の気持ちもわからなくはないが、これはまっとうに生きていればこそのご褒美だ、きっと……。 十分にも満たないそのわずかな瞬間は、 僕が生きてきた中で 一番セクシュアルな時間だったのにもかかわらず、 杉の花粉に侵された僕はなす術もなく、 くしゃみ地獄に飲み込まれていた。 なんともったいないことか!
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