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彼女は電話口で泣いていた。
娘に非があるのは充分承知の上で、別れてやって欲しい、そう言った。
「お義母さん、言われてることは良く分かるんですけど、僕はまだ……」
渋る僕に、たたみかけるように言った。
「幸い、子供も出来なかったんだし……」
このままでは引き下がれないと、牙を剥こうとしていた僕はきゅっと唇を噛んだ。
出来なかったんじゃない、美紗が、まだ欲しくないと言ったのだ。
美紗を愛しているから結婚したはずなのに。
まだ愛しているのに、それを差し置いて、露呈されていく事実のすべてが、僕の味方になるつもりはないようだ。僕に選択権はない。
突き付けられた不条理が絶望に変わる。
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