届けたくて

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 ほどなくして須藤が中から出てきた。 「よう、久しぶり!」  懐かしい、明るい笑顔だ。 「久しぶり! 元気みたいだな」 「お前もな! で、ナニ持ってんだよ?」  彼は何か汚い物でも見るように顔を(しか)めた。 「別におれからじゃねーよ、頼まれたんだ」 「何を?」  眉間に皺を寄せたまま須藤が尋ねた。 「今日は二月一四日だぞ! 決まってんだろ、バレンタインだよッ、バレンタイン!」  須藤の顔がさらに険しくなる。 「そんな顔しないで受け取れ……」  紙袋を持ち上げたので視界にそれが入った。  それは私が佳那恵から受け取った紙袋ではなかった。いや、恐らくその紙袋だ。しかし、余りにも変わり果てている。  それはドロドロに汚れていて中にもヘドロが詰まっていた。まるでドブ川から引き上げてきたかのように。 「うわッ」  思わず手を放す。  そして佳那恵の姿を探したが、彼女はどこにもいなかった。
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