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暫く呆然として、そしてはっと我に帰る。
これは、明らかな異常事態だと理解出来た。
こういう状況に関しては、私の──学校の後輩の専門だ。
あの子に任せれば、きっと解決してくれる。
だって、あの子は ──完璧ではないけれど── メアリー・スーだから。
他の人達とも協力すれば、こんな事を解決するのは容易だろう。
その為にも、まずは彼女と会わないと。
私は、学校まで一目散に走った。
名前、蓮本 敬寧。
横浜市立詩乃薔薇中学校に通う、中学2年生。
吹奏楽部でクラリネットを吹いている、ごく普通の中学生。
最初は、そうだった。
何故私がごく普通でなくなってしまったのか、というのを説明する為にはかなり時間を遡る事になる。
・・・小学校の時から仲の良かった友人が居た。
4年生の時に転校してきた彼女とは、すぐに打ち解ける事が出来た。
黒髪で、黒目で、日本語が自然であったが故に、私は彼女を日本人だと思っていた。
けれど、見てしまったんだ。
彼女の目が、黒色ではなく薄い紫色 ──藤色、と言うのだろうか── になっていたところを。
「見られてしまったからには、全てをお話しせねばなりませんね。」
あの時、いつもの声色で、けれどいつもとは全く違う口調でそう言った彼女。
彼女から語られたその真実は、とても突拍子の無いもので、簡単に信じられる事ではなかった。
日本人だと思っていた彼女は、実はイタリア人で、14歳という年齢で海軍に所属しているという事。
そして、それと同時にマフィアの関係者でもあるという事。
「ふふ、信じられないでしょう?しかし、イタリア人であるという事だけはこの藤色の瞳が何よりの証拠。今まで貴方の事を騙していたのは、本当に申し訳なく思います。もし、貴方が私の事を許してくださるのなら。これからは、ヴィオラ・カルデローネとしても、仲良くしてはいただけませんか?」
そう言って、いつもとは違う美しい所作で跪き、手を差し出した彼女。
その手は、取るべきではなかったんだ。
だって、その手を取ってから、私の人生は狂ってしまったのだから。
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