私、異世界に訪れたようで御座います。

4/8
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 ある程度予測を立て終えた私は、いつの間にか大きな大木に背を預けていた事に気が付きました。同時に、虎の目が爛々と輝き今にも私を襲わんと目の前に迫っていた事を認知しました。熱い。 「さ、先程も申し上げましたが……わた、私を食べても美味しくありませんよッ! たぶんッ!」  此処が何処だか余計分からなくなったせいか、恐怖心がぶり返して参りました。 「知ってる、が、我、汝、食べる」  おお……これは埒が明かないという奴で御座いますね。私の命も此処までという事で御座いましょうか。  こんな訳の解らぬ未開の地で、訳の解らぬ変な虎に首をもがれ、咀嚼され、引き摺られて輪廻の輪に帰ってゆくのでしょう。ああ、私は今の今迄何のために仏を信じていたのでしょうか。三年程前から心身全てを仏に捧げ、出来る限りを尽くしてきたというのに。  早速諦めムード全開の私で御座いましたが、ここでふと思いつきました。  何故彼は私――というか人間を美味しくないと知っていながら食べると仰られるのでしょうか。何やらそこに抜け道がありそうな気がしてなりません。  という事で、私思い切りました。 「はぁ……分りました。抵抗を止めましょう」 「おお、なら、我、直ぐ食べる――」 「の前に、一つお聞かせ願えないでしょうか?」  更に口を大きく開けた彼を両手で制し、瞳を向けます。ポイントは何と言っても、生を諦めた濁り眼を維持すると言ったことろでしょう。  動きを止めた虎は少々不機嫌そうな面構えで口を元の開き方に戻しました。それがデフォルテなのですね……。 「何だ」 「私思いました。何故あなたは私が美味しくないと分かっていて、食べようとなさるのでしょう。人も動物も、美味しいものを求めるのは同じ気がしますが」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!