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虎は私の言葉を聞き、きょとんとした表情に変わりました。何を言っているんだと言いた気な顔ですね。
「決まってる。汝、魔力、多い。喰らえば、強くなる。だから、食べる」
「は? まりょく?」
「そう。だから、食べる。いただきます」
「ちょちょちょちょ! ちょっと待ってください!」
言うなり大きく口を開き迫って来た虎を辛うじてしゃがんで避けた私は、彼の股の下を転がるように逃げ出しました。新調したばかりの袈裟が所々焦げてしまいましたが、命あっての物で御座いましょうし、今回は良しとします。
体勢を立て直した私は大木に齧り付いている虎に再度問いかけました。
「そ、その魔力? とやらは食べることでしか摂取出来ないのですか?」
「ウガウガ……ペッ。逃げるな」
「質問に答えて下さい。もう死ぬというのに最後の最後でもどかしさを覚えさせてお終い、なんて酷すぎやありませんか?」
「うぐ……確かに。別の方法、ある、ことには、ある。が、面倒。我、嫌」
な、なんという我が儘な。
思わず虎に白い目を向けてしまった私は、一度咳払いの後、焦らぬようもう一度言葉を続けました。
「ならば、如何にかその方法でお願いできないでしょうか? どうか私のこの状況を自身に置き換えて考えてみて下さいませ。食われて死ぬ……なんて悲しい最後でしょうか。せめてもう少し時間が欲しかった。まだ二〇になったばかりだというのに……」
同情作戦、とでも致しましょう。
「た、確かに。嫌。でも、我、強くなりたい。でも、あの方法……我、自由、無くなる」
「あの方法?」
効いたようで御座いますね。虎の表情が同情に変わっております。こういう場合は、相手の頭が良いと助かりますね。本当に。
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