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『―――シズク、サブノックのお友達から貴女にお手紙が来ているそうよ。
こちらの机の上に置いておくから、後でお読みなさいな』
『はい、ありがとうございます、ボリジ奥様』
ドアはこの部屋の主への配慮の為に、一切ノックはされず、建付けの良い扉は僅かな音も響かせずに開きました。
シズクも、今は部屋の主の為に、この屋敷の現在の主である夫人ボリジが部屋に入って来たにも関わらず、視線を向ける事はなく、雇われる際に告げられた様に、自身の仕事を熟します。
そして雇い主である夫人ボリジは、シズクが熱心に乳母としての仕事を、自身の甥に向けてそれこそ心血を注ぐという具合に行ってくれている事に、満足そうに微笑みました。
この年若い乳母は、最初に乳母を募集をした際には、南国の王族から紹介所を携えている事も驚きでしたが、籍こそセリサンセウムにあるもの、シズクと言う名前しかありませんでした。
さらにその姿は、セリサンセウムの国の民と言う証明にもなる旅券もありますが、異国の風貌となります。
けれど、そういった事を気にしなくても良いと思えてしまう慈愛に満ちた雰囲気と、マインド家が乳母を募集する広告の特殊な内容に眼をつけた、シズクの親友でもある婦人に薦められて、ということもあっての強い意気込みを感じ取れました。
その特殊な事情と言うのは、マインド家の跡取りとなる男児というより赤子は、この世界も産まれたと同時に、血の繋がった両親との縁は切れてしまうという物となります。
それは、平民の出自には詳しい事情というよりも理解し難い話は、元々マインド家の家督を継ぐはずあったロドリーの実父が夭逝してしまい、それと同時に嫁いでいた夫人はその胎内に子どもを宿していながらも、離縁を申し出ていました。
普通ならそこで色々と揉めてしまいそうな物ですが、貴族社会ではそれは順調に仕方がない事だの七文字で片づけられてしまいます。
当時平定の英雄でもあった、王妃トレニア・ブバルディア・サンフラワーは平民の出自でまた平定の活動の最中に、王子であるダガーを授かり出産し、自身の手で可能な限り、夫で国王ともなるグロリオーサ・サンフラワーと共に育児を行っていた事で、それが世間には称賛奨励をされていました。
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