入浴剤《バスボム》⑭

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それからシズクに"窮屈と言うよりは、相性もあるから、このお兄さんにとっては堅苦しい(・・・・)かもね"と、先程サブノックの貴族の生活に対し、年若い乳母の疑問に答えくれました。 ただ説明をしてもらいましたが、商人や偽名の青年(スパンコーン)の口にするサブノックの貴族の窮屈さと堅苦しさは、年若い乳母殿の想像に及びません。 だから貴族の生活(その関連)への反応(リアクション)が巧く出来ないので、シズクからしたなら、何にしても南国からセリサンセウムへの旅路を護衛として共にしてくた、人物に、もう何度目かになる感謝と言葉と共に、彼にとっての帰路の安全を願う、嘘偽りのない言葉を口にしていました。 ―――無事に帰って、御家族に御健勝な所をお見せくださいね。 窮屈で堅苦しいかも知れませんが、サブノックの武人でありながら、こんなに穏やかで優しそうな青年を育てということは、本人の資質もあるでしょうが、基盤(ベース)となる文化があってこそだと、シズクは考えます。 "殿方(強者)婦人・子ども(弱者)を守り、気遣う"という価値観と文化が、確り認められ、その国に住む民の心に根付いているのが、短い付き合いながらもシズクにも伝わっていました。 南国の仕事場から突然の(いとま)を告げられ、途方にくれた年若い乳母の母国(セリサンセウム)への帰路が一緒になったに過ぎない、シズクの方が年上ではありますが、世間的には、ただの小娘を責任を以て送り届けようとしてくれた、"紳士"を育てた異国の文化に、同調の形で事実だとしても、窮屈や堅苦しいという批判的な言葉は口にするのは躊躇われました。 するとシズクの心情を察し、女商人に発破にかけられた言葉に最もだ(・・・)という感想を抱いた偽名の青年(スパンコーン)は苦笑を浮かべます。 ───そうですね、何にしても商人殿の仰ったとおり、出世して1人で行動するのも俺自身の責任になったなら、もう少し自由は出来るようにはなりますし、シズク殿が気遣ってくれた通りに先ずは元気な俺の顔を見て貰おうと思います。 ―――ヒャッハー、そうよー、それでとっとと本名をシズクや港町で出逢ったマクガフィン家の皆さんに披露する許可を得てから、私の息子に"スパンコーン"って名前を譲って頂戴な!。 商人の"スパンコーンの名前を譲れ"という発言には、乳母と武人は顔を会わせて苦笑いを浮かべます。
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